物色日記−2005年3月

※頻出語句解説はこちら
  3月31日
▼鶴舞K.D.JAPONにて見てきました4人編成版HELLA!ストーム・オブ・カタストロフィック・イレスト・スカム!でした。イレスト・エヴァー!異様な多幸感、星の数ほどの4人分の手数が星雲の如く群れ集まってリアル・スペイシーな、あれはもうかつて全く未体験な強引過ぎるトリップミュージックであったことです。

 とりあえず会場のK.D.JAPONは何かの催し期間なのか、壁じゅうに流木を張り巡らせて全体を巨大なカゴのように仕立てた内装になってて、もともと狭いのが更に狭く、練習スタジオに居合わせるくらいの近さ。雰囲気はかなり面白かったですが。HELLAの二人は相変わらずデイヴ・ロンバードのデジタル早送り激ドラム+グデグデブルータルデス&カントリー?な激ギター(今回間近で見てグデッとしたグルーヴが重要な味であることが判明)をずーっと続行。プラス二人(ベース/特殊効果一人、シンセ/ギター/サンプラー/ヴォーカル一人)が曲らしい流れを作ってくれて、音圧の凄まじさも壁の如きまで。目くばせで合わせてるだけと思われたブレイクが実は計算された変則キメだったことが判り、半笑いのあんぐり開口で見守るしかない感じでした本当に。特にベースのジョナサン(THE FLYING LUTTENBACHERS!!!)は超絶!!ノイズセッションかと思いきや4弦3F付近〜1弦16F付近まで3フィンガーの16分で駆け上がる激高速フレーズ、ヴァイやサトリアーニばりの縦横無尽両手タッピングを次々と繰り出して、ノッてくればもしゃもしゃのヒゲとカーリーヘアーをブンブン振りながら跳びはね、ガッチリ太い両腕でベースを握り込んで立つだけで何かカッコイイし、久々にライヴでミュージシャンに腰砕けになりました。スゲーですよあの人。客も前回の来日より盛り上がって、曲が終われば盛大な拍手と歓声、アンコール要求も元気にこなし、名残惜しささえ感じつつの終了に。

 前座は1番手がTHE ACT WE ACT。まだ始まらんだろうと思ってハポン隣りのゆきちゃんラーメンに入ったら、思いのほか待たされてる間に終わってしまいました…でもあとでメンバーと仲良く話してたからきっとまたいいステージを見せてきっちり気に入られたんでしょう。2番手のザイモティクスは初期SST風の屈折ギターなハードコア。3番手はいつもの54-71。トリオになってから見るのも3回か4回目くらい。至近距離だとまた違った感慨があるかと思えばそれほど変わらず、いつもどおりのタイト極まりない演奏でした。ちなみにドラマー氏の足元の曲順メモが見えたんですが"ラテン""ファンキー"など割といい加減だったのが良かったなあ。

 さてそれでは写真の方を。極端に薄い照明の中で撮ったのを無理矢理あとから補正してるので暗視カメラの映像みたいですけど。

↑なんか凄いK.D.JAPONの内装 狭いがカッコイイ

↑54-71。んっだばっだつだだっ…とドラマー氏の声が聞こえる

↑まずは二人プレイのHELLA

↑4人でノリノリー!左下のサンプラー大活躍

↑スペンサーは変曲点のやたら高い激猫背

↑ジョナサンの強烈両手タップ 速過ぎて見えない!

↑その足元の機材一式 ベーシスト一人分とは思えないっ

↑も一発バンドショット ザックの髪は汗でベトベト
 上手くて変態だから感動ってのも勿論ありますが、高性能なバンドアンサンブルを必要充分に駆使して優れた音楽性を実現していたからこそ今回はここまで深く楽しめたのだと思っております。しかもメンバー一同いいひと。ドラムのザックは終演後ステージでニコニコ座ってファンが気軽に話し掛けやすいようにしてくれて、「みんな来てくれて凄い嬉しい」「君達ここには来たことあるの?」「この街はいいとこだね」などといったことをなるべく平易な英語で喋ってくれました。やっぱりあれだけ壮絶なドラミングだとシンバル各種やタイコのリムにぶつけるのか、両手のいろんな所がちっちゃいカサブタだらけ。あれで同い年の25歳って本当にショックです…。目当てだったジョナサンには、奥でTHE ACT WE ACTのヴォーカル氏と談笑してるとこを「グレイトショウ!かつて見た中で一番スゲーベース弾きだったっす」と感動冷めやらぬままのテンションで突撃し、サイン用に持っていったTHE FLYING LUTTENBACHERSの彼が加入後のアルバムのブックレットとペンを差し出したところ、数秒の間をおいて「ワーオ!…ゥワーオ!」とめちゃくちゃ感激するが早いかそそくさとブックレットの四つ折りを開いて中の自分の写真を嬉しそうに指差すジョナサン本当いい人。SKIN GRAFTのバンド好きなんすー、今日はアナタにこそ会えて嬉しいんす、と畳み掛けると、これ前から持ってるの?最近かー、内容は気に入った?勿論グレイトっす、MAGMAも大好きだし("De Futura"のカヴァー収録)バッチリです、あっ俺東京でルインズの吉田達也とやってきたんだぜ!そりゃもう…最高だったね。みたいなやりとりがひとしきり盛り上がり、最後にまたサンキューと握手をして感無量。英語力が足りればもっと話せたのに、あんまり込み入ったことまでは喋れず非常に口惜しいッス。しかしきっと彼も「ナゴヤに俺のバンドのブックレット持ってきた奴がいた!」と記憶に留めてくれたことでしょう。ああ私はアナタになりたいよ。日本随一のファンになるっす。

▼物販ではHELLAのTシャツのみ購入。CDの類はひとまず見送って収穫はなし。次のライヴ参戦予定は4月のSUFFOCATIONです。

【只今のBGM:THE FLYING LUTTENBACHERS「INFECTION AND DECLINE」】


←サインイエーイ!ということで。中身のレビューは昨年12月のこっちを参照!

  3月30日
収穫はなし。クシャミのし過ぎでPCにツバの点々がいっぱいついてます。この野郎。

【只今のBGM:KEV HOPPER「SAURUS」】


THE HIGH LLAMASに時々絡んだりする(といってもカヴァーアートで)ノコギリ奏者ケヴ・ホッパー氏の2002年作EP。私が既に持っている2000年のフルアルバムはなかなか野心的な実験音響アルバムに仕上がっていましたが、全5曲のこちらはもっぱら牧歌路線。色んな生楽器(殆ど全て彼自身による演奏)がチキチキピョコピョコと鳴らされるその上にヒュウオ〜とノコギリが鳴いて愉快やらうら哀しいやら。ショーン・オヘイガンが参加してる曲もあるけどそれとは関係なく割とTHE HIGH LLAMASに近い感じがあります。ケヴ本人が歌う唯一のヴォーカルチューンでは、クリムゾンの"風に語りて"みたいな英国紳氏ishな情緒が漂ってまた良い。ブックレットの解説によると98年に出してたというフルアルバムはやっぱり音響路線だった模様で、となると曲数の少ないこれは作り手側としても息抜き的に制作したんでしょうな。確かに斬新であることは忘れて和んでみたっていうノリ満点なので、フルアルバムでの背筋が伸びるアーティスティックな気概を求めるとちょっとハズします。多分ハイラマズファンこそ聴くべき。スピッツファンが本秀康の漫画読む感じで。

  3月29日
本日の収穫、バナナ栄店にてLIFE OF AGONY「UGLY」、同本店にてBRANCH MANAGER「ANYTHING TRIBAL」(DISCHORD激シブトリオ97年)、YESTERDAYS NEW QUINTET「ANGELS WITHOUT EDGES」(a.k.a.MADLIB)。やけにサバばっか食った一日だった。昼もサバ夜もサバ。バナナは今マルフク券出てます。

【只今のBGM:LIFE OF AGONY「UGLY」】


95年ROADRUNNER。HELMETやQUICKSANDやせいぜいBARKMARKETは再評価されても、この人達は完全に忘れられてます。硬派グランジ〜「モダンヘヴィネス」系(死語!!)の中でもそこそこのセールスがあったはずの4人組。ヴォーカルのキャラクターゆえSTONE TEMPLE PILOTSあたりのチャラついたのと一緒に括られてるようですが、やってる音楽性はQUICKSANDと初期TOOLの中間のような感じ。サバスリスペクトのフリしときゃOK的な安易なノリはなく、あくまで生真面目でゴツゴツ節くれ立ったヘヴィリフ(歪みが深い!)がなかなかカッコよい。しかも結構垢抜けてます、これ普通にイイんじゃないのか?ごく最近のANTHRAXにピーター・スティール(Vo./TYPE O NEGATIVE)が加入したみたいな感じだったりしますよ。一周して今まさに旬が来てる音な気がします。TRAINDODGE景気に乗じてこのへんまで漁りを入れてみてはいかが?中古なら十中八九激安ですから。

  3月28日
本日の収穫アマゾンから届いたCHROMA KEY「GRAVEYARD MOUNTAIN HOME」、KING'S X「MANIC MOONLIGHT」、THIN LIZZY「SHADES OF A BLUE ORPHANAGE」。日々飽きるくらい自転車で移動する生活を送っていて、たまに悪天候のせいで地下鉄を利用してみると、以前は運賃を払うのも忌々しかったのがいつのまにか意外と納得かつ幸せと思うようになりました。ああこんだけの快適にこの代金を支払ってるのかというのがわかる。地下鉄の運転手は逆に、乗せてる客が仮に全員地上を自転車で移動したときの「クソッ昨日も今日もこの景色とこの距離かよ」という気持ちと疲労の身代わりを一手に引き受ける難儀なお仕事なのですな。えっと、オチはないです。

【本日のレビューその1:KING'S X「MANIC MOONLIGHT」】


この欄で再三推しているKING'S Xの2001年作。元祖ダウンチューニング・グッドメロ・ヘヴィグルーヴ・トリオでございます。リリースは相変わらずMETAL BLADE。このアルバムはメタル畑のファンからはあまり好評じゃなかったようですが、理解出来ん!サンプラーのリズムループが入ったりしてオルタナ的レイドバックに拍車がかかり、なんかFOLK IMPLOSIONのようなアダルトな味わいがここへきて滲み出てきて実に良い。ヘヴィリフとハーモナイズされたヴォーカルのマッチングもひたすらナチュラル。いやー太いっす、こんな太いバンドはそうそうおらん。無茶かつ無理矢理な形容をするならジミヘン+SOUNDGARDEN+トッド・ラングレン+BECKか?全てのマスロックバンドが直接にせよ間接にせよRUSHとVOIVODの影響下にあるように、エモグランジ(って呼び方定着してるのかな)はKING'S Xのものだと私は思ってます。今ホントに聴き時ですから。94年「DOGMAN」以降のどれでも(それ以前のも当然グレイトですが)簡単に安く発見できますのでスグ買って下さい。

【本日のレビューその2:CHROMA KEY「GRAVEYARD MOUNTAIN HOME」】


DREAM THEATERの初代キーボーディスト、ケヴィン・ムーアのソロプロジェクトの3rd。在籍ラスト作「AWAKE」収録"Space-Dye Vest"で片鱗を見せたとおりのメランコリックで内省的な作風を全開にしたデビュー作「DEAD AIR FOR RADIOS」にはみんなビックリしたものでした。さてこの3枚目、もういきなり1曲目イントロからBATTLESばりのポリリズムループ!この人判ってます。ユルーい音響的アプローチの中に、度を越せば気が触れそうな独特のリリカルな美意識がばっちり健在で、待ったファンとしては最高の一言。元メタルな香りはどんどん消えてもはやポストロック〜エレクトロニカの域までいってしまいました。しかし巷で流行りの和みゴッコ系とは一線を画す芯の確かさ。例えようにも難しいです、DIRTY THREE+HOOD+PLUSH+PAN AMERICANと言っておこう。SPOCK'S BEARDやTHE FLOWER KINGSなどプログレメタル系バンドをフォローするINSIDE OUTからのリリースですが、KRANKYやHEFTYからDESOTO、POLYVINYLまで対応型の内容です。KING'S Xともどもメタルと無縁な人にこそ是非聴いて頂きたい大傑作!

  3月27日
収穫はなし。名古屋の桜はまだ咲かんがや。「みゃー」「エビフリャー」はネイティヴは全然使いませんが(オールドスクールかつハードコアな年配ユーザなら使い得る)、「がや」は割と頻出の部類でございます。他地方の方はホント誤情報を鵜呑みにしないで欲しいです、放送用名古屋弁協会に死を、宮地佑紀夫は日本を去れと。

【只今のBGM:MICK TURNER「MOTH」】


2001年DRAG CITY、DIRTY THREEのギタリストのソロ3作目。今回もまた何ともいえない崩壊アルペジオとその他の物音の総人力コラージュで出来たノンビートギター音響です。聴いてるとホントに海見えます。油彩の抽象画のジャケそのまんまの世界。鳴らされることにまず意義があるようなもっぱら逸脱目的の音響作品は世の中に数あれど、この人のやることは必ず情緒的で、また聴こうって気になるのが良い。とりとめのないものにこんだけの訴求性をもたせられるのは才能としか言いようがないです。オーストラリアに生まれ変わったジョン・フェイヒイとでも言うべき逸材仕事人だと思ってます。4月にART OF FIGHTINGと一緒に日本来るらしいのですが残念なことに名古屋飛ばし…!ここに日本屈指のダイハードな信奉者がいるんですけど!!まあ前回のAOF名古屋公演は集客が最低だったからやむなしか。ライヴパフォーマンスも恐らく神懸ったものになると思います、見れる方は是非見といて下さい(泣)。

  3月26日
本日の収穫、ブックオフ池下にてOLIVER NELSON「THE BLUE AND THE ABSTRACT TRUTH」(エリック・ドルフィー、フレディ・ハバード、ビル・エヴァンス参加!61年IMPULSE!)、今池グレヒにてTHE POSIES「FROSTING ON THE BEATER」(バーゲン品315円にて)、MAN OR ASTRO-MAN?「MADE FROM TECHNITIUM」(同じく315円)、V.A.「PROJECT:ECHO」(K、アナログ7インチのみリリース音源の太っ腹コンピ)。珍しくマクドナルドなんぞに立ち寄って、今月はダブルチーズバーガーが値下げだそうなのでそれを選んでみたんだけど、肉がダブルでこれかよってな厚みしかないのにチーズはちゃっかり2枚入りで殆どチーズ味しかせず、なんか相当厳しい代物でしたなー。マクドナルドはホント信用出来んっていうかもう凄いといえる域ですね。どうやったらあの写真がこの実物を指し示すことになるのかと。今後は小腹が空いてもうっかり「最近マック食べてないな」とか思わずにココイチのデフォルト(ポークカレー300g辛さ普通、400円)で幸せになろうと思います。

【本日のレビューその1:THE POSIES「FROSTING ON THE BEATER」】


シアトルのパワーポップバンドの93年3rd。オルタナブームに共鳴するように頭角を現して素直なインディポップを身上とした、TEENAGE FANCLUBあたりと同列で評すべき人達ですね。Kにいてもおかしくないような素朴な歌心が時に和み時に泣け、別段インディにしがみつこうともしない垢抜け感がまた結構快い。普通に曲が良いってのがいいです。バッタバタと振りの大きいビート感とがっつりラフに歪んだギターで全体の音像はズシッと重量があり、倦怠ポジティヴな精神的文系ダメ若者の生活の背景にスンナリ溶け込んでくれるような仕上がりになっとるんじゃないでしょうか。実はこのバンド、スピッツの正宗氏がフェイヴァリットに挙げてたから手を出してみたんですけど、確かに「インディゴ地平線」以降のオルタナギターバンドノリの原型らしきものがそこかしこに見受けられる気がします。スピッツ近年作支持派の皆様は安く見かけたら買っとくといいですよ。

【本日のレビューその2:FRENCH TOAST「HATRED MACE / FOR SYLVIA」】


フルアルバムのリリースで今ちょっと沸いてる、ALL SCARSのジェリー・ブッシャーとTHE NATION OF ULYSSES〜MAKE-UPのジミー・キャンティによるデュオの2枚目のEP。意外とメロディアスな突撃スカスカ前衛ポストコアをやっていた1枚目とはちょっと趣向が変わって、ニューウェイブノリが大幅に導入されてます。とはいってもチープなシンセや4つ打ちビートを飛び道具として使うだけのダンスパンク模倣組その他大勢のようにはならず、強調されたリズムが放つプリミティヴな愉しみに彼らなりに着目してみたといった程度なので、感化のされ方としては至極好ましい形なのでは。あとメロディ感覚がやっぱりどうにも独特です。堂に入ったアダルトな貫禄が頼もしい。BLACK DICEが思ったより普通でガッカリした人もコッチなら大丈夫でしょう。アルバム早く欲しいなあ。

  3月25日
収穫はなし。愛知万博開幕ですか、頑張って下さい。ヨシキ氏(ex.X JAPAN)作の気の抜けたテーマ曲だけは本当にどうにもなりませんな。「愛・地球博」の言語的な意味とそこに「アイチ」が入ってることの説明は外国語でどうやって済まされてるのかが気になる。多分他にも色々と訳わからんのだろうなと思う。

【本日のレビューその1:BLASPHEMY「GODS OF WAR + BLOOD UPON THE ALTAR」】


大昔、まだ年端もいかない頃、BURRN!のレビューでこの人達のアルバムが20点台で度肝を抜かれたのを覚えております。それが今やカルト名バンド扱いですから世の中判らんものです。イマイチ不確かですが恐らくカナダ産の4人組の、OSMOSEから2作品カップリングリイシュー。爽やかな爆走ブラックデスですね。ノルウェーの真性ブラック連中みたいなノリはなく、音楽的にもルックス的にも(メンバー一同ガンベルトやらガスマスクやらを御装着)ちょうどIMPALED NAZARENEあたりとパラレルな存在かと。確かにリフ刻みはグデグデだしブラストもへなっちょろいですが、まあそのへんが初期型の醍醐味ということで。ヘタなほど燃えるマイナースラッシュマニアみたいな人にはたまらんでしょう。オリジネイター世代の有名バンドじゃない部類の凄味みたいなのを体験したいだけならIMMORTALとかで充分。何つーかこういうバンドは、魑魅魍魎のブルーズの如くロマンと思い入れによって生かされていくもののような気がします。

【本日のレビューその2:RED STARS THEORY「RED STARS THEORY」】


MODEST MOUSEや764 HEROのメンバーがいるバンド。DUB NARCOTICにてキャルヴィン・ジョンソン録音の95年の音源を2001年にSUICIDE SQUEEZE(MINUS THE BEAR他をリリース)から出し直したものの模様。意外と昔からやってたんですな。しんみりチェンバースローコア風からBOYS LIFEばり(声が似てる)の激情エモエモバーストまで幅広く振れる、いかにもmid 90'sな音楽性です。うじうじ度6割増の初期APPLESEED CASTか、あるいはやけに青臭くなってしまったSONORA PINEか。というより殆どアナザー764HERO状態。曲のツブ立ちも上々で、なかなかの器のデカさを感じます。ひと世代あとのKIND OF LIKE SPITTINGなんかと比べるとガツガツして頼もしい感じ。TOUCH AND GOから出てるフルアルバムよりコッチの方が好みです。全6曲といえど収録時間長いし。

  3月24日
本日の収穫、強風を伴ういきなりの雨にたまらず駆け込んだ上前津FILE-UNDERにてFRENCH TOAST「HATRED MACE / FOR SYLVIA」、TARA JANE O'NEIL「THE JOY OF...」(2002年ACUARELA DISCOS)。カフンか鼻カゼか判らんけどとにかく毎日ダバダバのズビズバです。

【只今のBGM:YEAR OF THE RABBIT「YEAR OF THE RABBIT」】


FAILURE、CASTOR、SHINERなどのメンバーが集まったバンドの1st。リリースはメジャーのELEKTRAです。メンバーの4分の3が新しく別のバンドをやっとるようですが未だ存命なんでしょうか?内容的にはRIVAL SCHOOLSを更にヘヴィ&スペイシーにしたような、というかメンバーの経歴から想像がつく轟音エモグランジそのもの。あるいはKING'S X+RADIOHEAD(2nd)+NIRVANAなどと言ってしまえなくもない。歌メロにしろ何にしろ、譜面的な部分でのあからさまなフック(トリッキーなキメとか泣ける歌メロとか)は抑え目ながら、低音のガツガツ出る再生装置かヘッドフォンで大音量で聴けば確実に頭から飲み込まれるような淀んだヘヴィグルーヴがカッコイイです。芯にちゃんとドーッと押してくるような覇気があってミッド〜スロウテンポの曲ばっかり並んでいようともダルダルにはならず。言うても日本人にとっては地味シブの域を出ない気もしますが、94年頃のMTVノリが今でも懐かしいなんていう人にはたまらんはず。FOO FIGHTERSとかがこっち側の路線に来てくれたらきっといい時代になるんですがなあ。

  3月23日
▼MEDICATIONSのライヴリポを書く前に!万博絡みの割とどうでもいいニュースで私と同姓同名の人の名前が出てるようです。当サイト管理人はその報道内容と一切関係ありません!だって昼間に自分の名前を検索にかけてここに辿り着いた人が合計50人くらいいるんですよ、新手の荒しかと思いますがな。しかもこの地方の話だし紛らわしい!勘弁して下さい本当に…。だけど偶然来ちゃった方々はついでに、ここで勧めてるCD買って下さい。

▼というわけでMEDICATIONS。今回はもう写真を先に出して手短にいきましょう。ではどーぞ↓

↑ハイ、どーん!

↑デヴィン激弾き激歌い中

↑チャドは絶対瞼を閉じてコーラスします。恍惚

↑お、おにぎりが好きそうなア、アンディだな

↑チャドは超でっかい人なので足元のエフェクタとの縮尺が変

↑もう一発どーん!
 まだEP一枚しか出してないからFARAQUET時代の曲でもやってくれるのかなと思いきや、DISCHORDからリリースが予定されている新作フルアルバムからと思しき知らない曲が大量に披露されました。当然激テクを期待するわけですけど一番目についたのはドラムのアンディ!恐るべき手首の筋肉で猛高速フィル/キメ(殆どキメてばっかですが…)をジャストでズダズダ叩き込み、余裕のある場面では後頭部まで振り被ってライドだろうがタムだろうがブチ打つ、そりゃ強烈なプレイヤーでした。デスメタル界にいたとしても絶対ヒーロー級の腕。デヴィン・オカンポはいろんなアルペジオフォームを器用に組み変えながら小指までびしびし使ってヴォーカルとユニゾンになるラインをバッキングに混ぜ込む、芸の細かい仕事人でした。マーシャル直の音がデカ過ぎた上潰れ気味で細かいところが全然聴き取れなかったのが難。ベースは手元はあんまり見てなかったんですが、狭い会場なのにブーミー過にならず軽過ぎずぞりーんがりーんという高域の響きが程よく聞こえる理想的な音作りが凄く良かった。プレイ的には敢えて前に出ようとする感じではないにしろ、シビアこの上ないアンサンブルの中でギター・ドラムとガッチリはまっておりました。いやー本当に音源より何倍もエネルギッシュなバンドでしたよ。そして写真より何倍もオッサンなバンドでもありました。大概ビール腹。前座はJOURNAL SPY EFFORTが壮絶テクニカル集団でびっくり、あれは凄い。THE SHUWAはギターにLES SAVY FAVのステッカー貼るのネタバレじゃんって感じの4つ打ちダンスパンクでしたがパフォーマンス自体は良かったと思います。

▼物販ではTシャツのみ購入で収穫はなし。HELLAまた来るんですね、前回の来日で腹十二分目まで堪能したので行くかどうかは未だ決めかねております。

【只今のBGM:ISOTOPE217「ISOTOPE217 MIXED BY COMMANDER MINDFUCK AND DESIGNER」】


99年AESTHETICS、2曲入りEP。ライヴレコーディングのリミックスだそうでAMGによるとDESIGNERはケイシー・ライスのことだとか。COMMANDER MINDFUCKの方は謎。ダブ〜アフロ色が濃いめの仕上がりでAESTHETICSからのリリースも頷けますね。「BITCHES BREW」あたりの、アヴァンジャズにストレートなファンクネスが幅をきかせるようになった頃の雰囲気が漂ってます。正規のフルアルバムではTORTOISEのオマケみたいなモード+ロニカ路線から始まってどんどん非人間的洗練に突っ走っていく訳ですが、その傍らこんなものをリリースしていたとは。HIMやTHE SORTSに非常に近い。これはなかなか乙なアイテムなんじゃないでしょうか。

  3月22日
収穫はなし。飲みバイ飲み、飲みアフター飲み。帰路残り40分くらいで今ウォークマンに入ってるCDを売ることに決めたときにそれ以降無音でいくか、つまらんと思いながら聴き続けるか、難しいとこです。

【只今のBGM:DIO「LOCK UP THE WOLVES」】


一般的にはダメ盤扱いを受けている90年5th。ギターは弱冠18歳にして5000人の候補から選ばれたローワン・ロバートソンなる人物ですがその後聞かない名前です。キーボードは殆ど弾いてないけど無駄にイェンス・ヨハンソン。とりあえずツカミのいいファストチューンでスタートして、サバス風ののっしりしたミッドテンポナンバーが続くという、「HOLY DIVER」以来のDIO流黄金律を今回も死守しております。違うのは3曲目以降もひたすらのっしり系一辺倒で押してるところ。R&Rリバイバルに毒されてるでもなく、スラッシュメタルのスローダウンブームやサバス再評価に乗っかろうとして乗りそこなったような感じです。うーん確かにこれはキビシイ。熱心なファンでも"Holy Diver"や"Last In Line"みたいなのが5曲も6曲も続いたらさすがにゲップ出るでしょう。ローワン君は8フィンガーもキメる敏腕プレイヤーだし、ロニーは当然あのノドですから、燃えるとこでは燃えるんですけどね。判ってたことですがやっぱりDIOは1st・2ndに尽きます。

  3月21日
収穫はなし。南半球オーストラリアの夏、空はアホみたいに濃い青で高く、雲はなし。空気はカラッとして熱せられて暑い。背の高過ぎない広葉樹が草原にまばらに立ち、左端からトントンと?あっトントンとひとつワラビーが登場。ワラビーってカワイイなあ。切れ長でちょっとコワイ目だけどこっちをジッと見て不動。カワイイなあ。手はお岩さんみたいに前で下に垂れてます。ジーッと見る。視界右上端にスッとペリカンが飛んですぐフレームアウト。どこからともなくワラビーの仲間がトントンと寄って来る。みっつ並んで不動、ジッと見る。連続する動物はカワイイなあ。みっつもいると個体差に目がいくけど、やっぱり最初の奴が一番カワイイです。少し右の方に目をやると、枝にトロピカルな色使いの大きめのトリ。トリの後ろは空でとにかく青い。トリはチョコボールのキョロちゃんみたいな奴からたらたら羽根が垂れてる感じ。トリって目頭の線が下向きにちょっと反ったクチバシの先端に集まって鋭い印象になるからコワイ。でもあの眼光の奥になんも考えてないんだろうなーと思うとアホみたいでカワイイ。トリ、トリ、ああこれ以上は現実感のある妄想が難しいから意識を日本に戻して現在10月下旬の、26日。いつになったら寒くなるのかと言いつつ過ごしやすい気温で、空気はスキッと冷ため、軽くて何も含まない感じ。カゼの治りかけで顔面の前半分がちょっとモクモクする。目がちょっとモクモクする。鼻水は重力でたらーっと垂れるけどそれ以外の症状はおおかた治った。強いていうならノドのクシャクシャがちょっと気になる。鼻は出るけどもっぱらノドが気になるなあ。今日が26日だから明日は10月27日。

 という妄想を真剣にしてたらさっきは鼻水と目のかゆみが止まったんですが、今はなんかダメでした。くそ。

【本日のレビューその1:ORNETTE COLEMAN「THE SHAPE OF JAZZ TO COME」】


いわゆる名盤を敢えて。59年のATLANTIC移籍作にして言わずと知れたフリージャズならびに全てのアヴァンジャズの金字塔ですな。汗水垂らして絶叫、調など一切不明な猛スピード、純邦楽みたいな無拍子、といった類のものは意外と登場せず、ハードバップをあやしい鍋でグズッと煮崩した程度のリズムを土台にオーネットのサックスとドン・チェリーのコルネットがウキウキのノリノリで突拍子もないフレーズを歌い込むといった体裁。普通のコード感だって時々現れますし、1曲目"Lonely Woman"なんぞはワンコード保持のモード風アレンジだし、身構えるほど崩壊してないっつーかこの人から出てくるフリージャズはあくまで音楽的で愉快なので好きです。ベース・ドラムの上に管だけが丸裸で乗っててピアノがないのもどことなくシュールに響いて可笑しい。ジャズの神妙エロな波長に馴染まないロッカー諸氏はビーフハートのノリでこの辺から入ると楽しいんじゃないでしょうか。

【本日のレビューその2:REX「WALTZ」】


恐らく1stと2ndの間に出ていた4曲入りEP。文字通り3拍子の曲ばかり集めた作品です。スロウコア然としたササクレ感はそんなになく、PULLMANに直通するカントリーフォークのオルタナ的再生に興じてます。こういうのって古い音楽を今の音響感覚で録り直すのが醍醐味の8割だと思ってるんですが、この盤は別に普通というか割とペタペタと奥行きのない貧乏な音像になっちゃってて、うーんディランもやってたよねこういうのという感想になってしまいますな〜。まあダグ・シャーリンは上手いし、紙ケースに布をはりつけた装丁もなんかイイ感じなので、コンプリートするためだけに買ってもそんなに悔やむことはないと思います。別に揃わなくてもいいという方は迷わず3rd「3」を。

  3月20日
収穫はなし。昨日に引き続きサークル絡みで卒業生追い出しライブコンパみたいなのに混じってきました。MELT BANANAのときにメガネを失くしかけたのと最近そのメガネが壊れたのとで、モッシュにはおっかなくて参加してきませんでしたが、静観のみ(とちょっと演奏)で充分満喫。それ以外のところでは忘れ物や失くし物やその他の小さい不運が多発してツイてなかったな〜、ツイてるツイてないって明らかにあるの何ですかなー。散々ジョークにされてるのにキムタクはまだ開いてる閉じてるって言うかなー。

【只今のBGM:JET BLACK CRAYON「EXPERIMENTS IN THE SPACE METAL TIME SIGNATURE」】


トミー・ゲレロの音響ユニットの2003年作EP。リリースはトリがナイスなGALAXIAから。ライヴでのインプロを音源化してほしいとのリクエストを受けて制作したものとのことで、数時間に及ぶスタジオセッションを編集する形で完成したようです。ドラム・ベース・ギターに各種サンプルネタが紛れ込むというやり口の、ヒップホップやソウル/ファンクを渾然一体に消化したジャムバンド風の6分台のトラックが4曲収録。西海岸らしくラウンジーで開放的な雰囲気が根底にありながら腰に直接アタックが来る重心低めのグルーヴも強烈でございます。極太のUIか、黒いFONTANELLEか、リゾート中で日焼けしたBEASTIE BOYSか、そんな雰囲気。生演奏を想像しつつ無心になって、上手くバイオリズムと噛み合えば恐らく相当最高でしょう。何ならヘッドフォンで音量上げるとより良いはず。

  3月19日
▼卒業した大学のバンドサークルに10年くらいいる(現在形)先輩の結婚式の二次会に行ったら大同窓会。部員10年分ですから壮絶でした。遠方で全然違う生活をしてる人々の話を聞けて有意義極まりなかったッス。年齢的に自分が下っ端という状況が懐かしや。余興のバンドでギターも弾いたんですが、絶不調の出来を「今日は冴えてなかったね」と斬られて清々しかったなあ。

▼朝はサウンドベイのバーゲン行ってきました。レジの列長すぎ。てことで本日の収穫、金山にてAPHRODITE'S CHILD「666」(ギリシャプログレ!)、JOAN OF ARC「IN RAPE FANTASY AND TERRO SEX WE TRUST」、KEV HOPPER「SAURUS」、CAPTAIN BEEFHEART「SHINY BEAST (BAT CHAIN PULLER)」(79年)、THE LONESOME ORGANIST「CAVALCADE」、JET BLACK CRAYON「EXPERIMENTS IN SPACE METAL TIME SIGNATURE」、THE RED STARS THEORY「THE RED STARS THEORY」、HIM「EGG」、REX「WALTZ」、ISOTOPE 217「ISOTOPE 217 MIXED BY COMMANDER MINDFUCK AND DESIGNER」(AESTHETICからのEP)、YEAR OF THE RABBIT「YEAR OF THE RABBIT」、MOCKET「PRO FORMA」、BOB DYLAN「JOHN WESLEY HARDING」、THE ROLLING STONES「BLACK AND BLUE」、DIO「LOCK UP THE WOLVES」、CRYPTOPSY「AND THEN YOU'LL BEG」、BLASPHEMY「GODS OF WAR/BLOOD UPON THE ALTAR」(OSMOSE極悪ブラックメタルクラシック!カップリングリイシュー)、上前津でTHE BYRDS「DR. BYRDS AND MR. HYDE」「BALLAD OF EASY RIDER」(リマスター)、THE LONESOME ORGANIST「FORMS AND FOLLIES」(絵本つき未開封新品)、ORNETTE COLEMAN「SOMETHING ELSE!」「THE SHAPE OF JAZZ TO COME」「DANCING IN YOUR HEAD」、MICK TURNER「MOTH」、DIRTY THREE「SHE HAS NO STRINGS APOLLO」、BRUCE SPRINGSTEEN「BORN IN THE U.S.A.」「THE WILD, THE INNOCENT AND THE E STREET SHUFFLE」、JAN JELINEK「AVEC THE EXPO SURES LA NOUVELLE PAUVRETE」。明らかなまとめ売りや謎の新品未開封の大群がわさわさあってこれでも泣く泣く絞った方です。何なんだあれは。

【只今のBGM:CRYPSOPSY「AND THEN YOU'LL BEG」】


やっと入手の4th。前作で見せかけた叙情リフは完全に引っ込んで、冷血この上ない極速変則リズム・マシーンと化しております。何だかドロドロしたメタルっ気がどんどん失せてDYING FETUSとかみたいな方向に近付いてますね。THE DILLINGER ESCAPE PLANに感化されたっぽい部分も。テンポをズタズタに切り替えながらズドドドドと猛突進してひたすらスポーティな感触です。陰険で邪悪だった1st、次いでロードワームが凄い2ndが好きな身にとっては若干寂しい変化ですなあ〜。ブラストの細かさとその他のテクニカルさで勝負に出るよりもっと信じられない下劣さでウゲッと思わせてほしいのに。あとドラムがギターに押され気味かつベースの低音成分が前に出ないミックス(手数が多過ぎる都合上バランスを取るにも均衡点の設定が難しいんでしょうけど)もちょっと迫力不足。高性能化と没個性が拮抗関係に陥ってしまうデスメタル進化論は何とかならんものか。この人らは前例なき高性能を強引に個性にしちゃってますが。作品自体の出来はいいですよ。

  3月18日
収穫はなし。ウォークマンネタでまだまだ引っ張ります。自分がウォークマン生活を送るようになると、途端に道行く若者が耳にしてるそのイヤホンから何が流れてるかやけに気になります。今日信号待ちで対面になったりして私が視界に入った人々はまさか、一見まあ普通そうなこの20代半ばの男のBGMがエリントン楽団だったとは思いもよるまい。みんな「NOW PLAYING」って書いたスタンドに再生中のCD挟んで頭の上にくっつけといてくれるといいんですがなあ。あるいは実況ハミングか。先日深夜に大学生風の青年が臆面なく大声でオレンジレンジを歌いながら自転車で疾走してったことがあって、そうか青春とは大音量のヘッドホンのようなものかと納得してしまった次第。

【只今のBGM:CAL TJADER AND CHARLIE BYRD「TAMBU」】


ラテンのカル氏(ヴィブラフォン)とボッサのチャーリー氏(ギター)が組んだ73年作。アイアート・モレイラと絡んだやつが最高だったので買ってみましたが、こちらは割と普通にフュージョンマナーのラテン風って感じでした。この年代らしくアレンジ的な挑戦に労力を多めに費やしてる様子で、またラテンもボッサも大人しくやれば元来えらくスムースな音楽であるという性質上、割とユルめの仕上がりです。オンマイクのマルチ録音、エレピ/エレベの使用など、OJCのパッケージで出てるものとしてはオッと思わすところもあり。ボブ・ジェームスとかと同じ感じで手にすれば間違いないでしょう。

  3月17日
収穫はなし。事が荒立つのが面倒なので「早めに医者へ行く」「予防薬を飲む」のが苦手です。この腰痛が冗談だよと笑ってほしい(五輪真弓"恋人よ")。全然話変わりますけど、デトロイトテクノかそれに準ずるもの(私が実際聴いてたのは先日買ったDELSINコンピ)をヘッドホンで聴きながら移動してるとランダムな各種都市騒音が神懸り的に溶け込んでなかなかイイですね。チャルメラみたいなサンプリングだな〜と思ったらチャルメラだったし。うーん、「全然話変わりますけど」がオチだったということが伝わりにくい文面になってしまった。

【只今のBGM:BUILT TO SPILL「THERE'S NOTHING WRONG WITH LOVE」】


朝突然「昔のビルスピってどんなんだっけ??」と思ったのでいきなり(恐らく2〜3年振りに)聴いてます。94年2nd。UP盤もあるようですがウチにあるのはCITY SLANG盤。Kとも絡んだりしていた人達なだけあって、この頃はメジャー移籍後の作品より俄然たらたらへろへろしてます。ヴォーカルを1オクターブ上げた眠そうなBEAT HAPPENINGというか、セクシーじゃなくてもっぱらラブリーなPAVEMENTというか。しかしPOCOやらそれこそTHE BYRDSやらといったオールドアメリカンな情緒もそこはかとなく皮膚の色に表れているといった感じで、イイなあ突き抜けてないのがイイなあ。洋楽のことなど全然知らない知人用に編集したおすすめコンピの中にこのバンドを収めておいたら後から「あのスピッツみたいなの結構好き」という感想が返ってきたことがあるんですが、WARNER移籍後のアルバムを「ハチミツ」以降とするならこのへんは正に1st・2ndの趣きですね。シンプルにしかやってない分完成度は(焦点が定まってるという意味で)より高いですけど。ノーリバーブでたぱたぱと鳴る潔いプロダクションもインディらしくて良し。ああこれは、一番良いかも知れないッス。なんか変に身近な知り合いがこんなバンドやってそうな感じがするのもいい。今や定番扱いの大名盤「KEEP IT LIKE A SECRET」がいまひとつ肌に合わなかったという方はこっちをどうぞ。

  3月16日
収穫はなし。最近は夜、ミキシングなどの作業にかかるにも時間帯が遅くなってしまったとき、とりあえず寝て、今からしようと思っていたことは翌朝やる、という生活を実行しておりまして、これ素晴らしいっす。しばらく続けてると順当に生活時間がシフトして、24時台には眠くなります。朝を見て朝から始めるってのはいいですね。

【只今のBGM:THE BYRDS「THE NOTORIOUS BYRD BROTHERS」】


68年作5th。ペダルスティールがフヨ〜ンと鳴る和みカントリー/フォークを下地に、ビートルズを手掛かりにしたと思しきサイケ・テイストが相当大々的に導入されて、もう殆どYO LA TENGOBEACHWOOD SPARKSと何も変わらない。むしろサイケなるものの捉え方がより凶暴で、時々腰を抜かすような破綻を見せてくれさえします。スゴイなあ。こんなあからさまなドラッグ礼賛サウンドが普通の顔してオーバーグラウンドを歩いてたなんてえらい時代です。ヘンテコ展開のくせに軒並み2〜3分台の曲ばかりってのがいい。あとは変に5kHz付近にピークをもってきたようなヴォーカルのツンツンする感じとやったらタイムの長いリヴァーブが全部取っ払われてスッキリしてたら良かったのに。この頃も大概、80年代に並ぶ非リアル音場捻出の時代だった気がします。今や固有の情緒の一部にされてますがね。まあそんな話はさておきグレイトなアルバムであることですよ。

  3月15日
本日の収穫、大須グレ・ヒにてLED ZEPPELIN「IN THROUGH THE OUT DOOR」、V.A.「...GOING THRU LIFE」(DELSINコンピ!アナログ7"のみリリース音源多数収録)。最近はCDを物色してると、オッこんなんあるじゃんと思って一度手に取って、いや多分買っても聴くの1回だろうなと思って棚に戻し、そうかーこの人達のCD何枚か持ってるけど売っても悲しくないやと気がついて、家に帰って既に持ってる分を放出用CDの群れに移動させるということがよくあります。ラインは厳しくしていかんとですね、聴く時間や収納場所もないですし。それより一週間前に笑い話で書いていた腰痛が悪化する一方です…

【只今のBGM:RETSIN「EGG FUSION」】


昨日のIDAのよしみで今日はRETSIN。RODAN〜THE SONORA PINEのタラジェンことタラ・ジェーン・オニールと、THE NAYSAYERでも一緒だった相方シンシア・ネルソンの二人組ユニットの96年作です。RODANの血筋は全部網羅せねばという使命感ゆえの買い物。アコギ×2だったりドラム入りだったり、ゲストも多数交えて色んな編成になっとりますが、内容はおおむねルイヴィルSSWそのもの。枯れてて優しい弱刺激性スローコアフォークです。ちょっとオリンピア(すなわちK)的なテケテケした愛らしさもあって、二階堂和美をフルバンドにしたらこんなんかもという感じも。大音量でライヴ現場を妄想しながら聴くと没頭するはず。タラ嬢の仕事はいつもアーティスティックですなー。

  3月14日
▼ガンダーラ、ガンダーラ、収穫はなし。そういや昨日は最近オープンしたばかりの名古屋・栄の新スポット(って何だよスポットって)、サンシャイン栄と三越ラシックを通りすがってきたんでした。休日とはいえ人間多過ぎ、名古屋ってこんなに人住んでたかと思う。あと近頃は吹き抜け建築が流行りなんすかね。郊外のアピタみたいです。総括しますと、文明人はそんなに服と雑貨が必要なのか?ということ。若者が集まってハッピーでエキサイティングでちょっとアンリアルな場所ってもんの種類をそろそろ考え直さないとヤバイっていう話にはなってないんですかね世の中。プロダクツの購買が人に幸福をもたらすってのもあり方が難しくなってくるんじゃないすか。ま私はCD買いますけど。

【只今のBGM:IDA「HEART LIKE A RIVER」】


割と出たばっかの新譜レビューということで。これで6枚目になるんでしょうか、解散/シャッフルの多いこのシーンにおいてはもはや珍しいくらいの長寿バンドになりました。メジャー移籍話もあった「WILL YOU FIND ME」はやたら歌モノとしてコンパクトにまとまったのが功を奏して大名盤となり、続く「THE BRAILLE NIGHT」はインディ方向に揺り戻ったものの初期の垢抜けなさが消えてLOWを優しくしたみたいになって、フロント二人のエレクトロニカ風プロジェクト(ヴォーカル入りでしたが)NANANG TATANGを経てこの6th。相変わらずダン&リズの男女混声が表を張る和みフォーキー・スローコアエモポップをやっとりますね。しかし微妙にNANANG TATANGの時間感覚をひっぱってるのか、歌メロが間延び気味で伴奏的に作用するものが多く、バックもアメリカン・サイケデリック・テイストをこっそり下敷きにしたようになっていて、優秀なポップス・アルバムであった「WILL YOU FIND ME」をもう一度というわけにはいきません。初回のパンチに欠けるが聴き手側の諸々のコンディションとマッチした時の浸透力は甚大って感じでしょうか。ディープなファンなら多分問題なし、初IDAな人はまず前作か前々作から。

  3月13日
本日の収穫stiff slackにてENON「LOST MARBLES AND EXPLODED EVIDENCE」、KARATE「IN THE FISHTANK 12」、IDA「HEART LIKE A RIVER」すべて新品で。MEDICATIONSのチケットとEUPHONEのTシャツも。あっPOLYVINYLの無料サンプラーもらうの忘れた!!そんでワタクシのやっているバンドの売り込みもやって参りました。ようやく皆様のお目にかかれる機会が訪れるやも。

【只今のBGM:HIM「5/6 IN DUB」】


2000年作。3曲入りですがトータルタイム30分近いです。まだラテンジャズにどっぷり傾倒しまくってはおらず、そういう片鱗は随所で窺わせつつ基本はエレクトロニカ〜音響っぽいマテリアル(「IN A SILENT WAY」色濃厚)が支配的。しかしリズムをぶつけあうインプロ合戦およびそのアメーバ的展開っていうやり方は不変でございます。うーん若干ユルイか。エクスペリメンタルというか実験そのものですな。習作的な香りがします。ダグ以外のメンツはカルロ・セナモ、フレッド・アースキン(HOOVER、JUNE OF 44他多数)、ジョシュア・ラルー(THE SORTS他)、デヴィン・オカンポ(FARAQUET!)、ヴィン・ノヴァラ(THE CROWNHATE RUIN他)、ジョン・セオドア(TRANS AM他)と超豪華なんですけどね。次の「NEW FEATURES」で威勢良く花開くその前段階ということで。

  3月12日
本日の収穫、バナナ金山店にてIAN DURY & THE BLOCKHEADS「DO IT YOURSELF」、ACCEPT「RESTLESS AND WILD」(リマスター!BREAKER RECORDS/SPV盤)、ついでにバーゲン一週間前で偵察に行ったサウンドベイ金山にてHIM「OUR POINT OF DEPARTURE」「5/6 IN DUB」、MICE PARADE「OBRIGADO SAUDADE」、RETSIN「SWEET LUCK OF AMARYLLIS」「EGG FUSION」、TELEFON TEL AVIV「MAP OF WHAT IS EFFORTLESS」。今週木曜にオープンしたばかりのアスナル金山、とりあえずえらい量の人間でした。そんなことよりあの黄緑と茶色が基調の外装は愛知万博にあわせて樹木でもイメージしたかったんでしょうか、建造中のガードレールの下地ペンキみたいで物凄く冴えないっつーか名古屋の恥の域ですわ。うーむ。

【只今のBGM:ACCEPT「RESTLESS AND WILD」】


この歳にしてやーっと入手です。TYRAN PACEだのSCANNERだのほざいておきながらこんな物を持ってなかった最低モグリ野郎です私は。泣く子も黙るスピードメタルの定番中の定番"Fast As A Shark"で情け容赦なくジェットスタート!…って何だこの歌い出しのウドのふげふげした声は。最初の数小節だけがなんか変ですよ。その後はニセ・ロブの面目躍起でトマス・リンドベルグばりにシャキシャキと張り上げてくれてるんですがね。間奏のツインリードはまんまHELLOWEENですなー、エディにタッピングの特許をもってかれたスティーヴ・ハケット(GENESIS)みたいな。その後のあまり有名でない曲もなかなかテンションの高い佳曲が多く、ナルホド名盤のオーラありです。ACCEPT聴くといっつも思うのが、なんかウドのルックスや声でやたらイモいイメージを持ってしまってるけど曲自体はヒネリの効いた転調なんぞを駆使してて、ヴァリエーションのつき方も豊富かつ的確だし、意外に凄く洗練されてるなあということ。全体的にはJUDAS PRIESTになりたそうなんだけどもっとメインストリーム向きの資質を持っている感じが。しかしこれで中途半端にノーマルなシンガーがいたとしてちゃんとキャラが立ったかといえば怪しいし、ウドとともに永遠の準A級にとどまる哀しき運命を背負ったバンドだったのですね最初から。ともあれプリーストその他のブリティッシュ勢のデフォルメにクラシック趣味(というかリッチーの真似というか)を加え、ひたすら先細りに濃く煮詰まっていくその後のメロディックメタル街道を頑張って整地した功労者として、きょうびのいわゆるメロスピにゾッコンな人々にはもっとリスペクトされるべきバンドだと思います。メタル純正培養の手本を世に示してしまった戦犯ともいえるし。

  3月11日
収穫はなし。一日こもって制作中の音源のミックス。雨ですから。4曲分完成してまあ良し。名古屋近郊にお住まいでCBCがご覧になれる皆様、現在2003年10〜11月にもやっていたドラマ「誰にも言えない」の再放送がまたやっております!!

【只今のBGM:PHOBIA「MEANS OF EXISTENCE」】


もう早く寝ようと思うので速いのを取り出してきました。SLAP A HAMとRELAPSEを渡り歩いたりする激重激速グラインディングデスの中堅バンドの98年作。いっつも売りCD裁判のときに被告人にされるバンドなんですけど、聴けばカッコイイから売らないまま。何故毎回証言台にひきずり出されるんだろうと注意深く聴いてみているんですが恐らく、年代の割にデスかコアかどっちつかずで収まりが悪いからですな。リフにメタリックなイーヴルさは余りなく、初期BRUTAL TRUTHあたりよりもガチガチと硬くて若干クラストっぽく、しかもダウンチューニングでひたすら重心が低いときて、要は今でいえばBENUMBみたいなグラインド重量級派の流れの草分け的なバンドだったのだろうかと思います。気持ち悪いとか笑えるとかそういう飛び道具がないゆえにインパクトはさほど強烈とはいえないものの、誠実でシブイ仕事してるんじゃないでしょうか。

  3月9−10日
▼両日とも収穫はなし。バナナ金山店は近日中に必ずや。

【本日のレビューその1:BARTOK「PIANO MUSIC ・ 3」】


またNAXOS盤。アマゾンで新品が800円切ります(時価)からナイスです。さてまた裏ジャケの解説訳をそのまんま載せますと、「ベラ・バルトークは作曲家としての成功以前にピアニストとしてかなりの評価を得ていた。彼の創作人生における主要な影響源は祖国ハンガリーと隣国ルーマニアの民族音楽であり、そうしたものは彼の作曲、とりわけこの盤に収められた"二つのルーマニア舞曲"や"3つのハンガリー民謡"、"10のやさしいピアノ小品"の一部などに表れている。その豊かなメロディと活力あるリズムゆえ彼の音楽は世界中で親しまれることとなった」だそうですフーン。近代クラシックと現代音楽を股にかけるような感じで色々幅広くやっとるわけですが、ロック耳から頭悪くブッタ斬りますともう、レコメンでモンクでデスメタルですわ。ヤバイ。クリムゾンやカウの前衛性も結局半分くらいこのあたりの発明の再現かよーと思わせる完成度の高い逸脱ミュージック。不穏極まりないスケールアウトがメロディとして作用してるのは理論的な正しさを心得た上でどこまで外れていっても芯を見失わないセンスの仕事ですな。どこまでも音楽的。低音でゴモゴモと高速で蠢くフレーズはUSブルータルデスの域だし、東欧フォーク色の入ったリズムのバキバキドスドスした曲は本気でMAGMAに直行してるし、まどろっこしい長大な楽曲形式に縛られてもいないのでロッカーにはかなりとっつきやすい内容かと思います。というかプログレッシャーは必須です。他のももっと買いたい。

【本日のレビューその2:B-52'S「COSMIC THING」】


昨年9月25日のこの欄でも紹介済みのバンドの89年作。低音スポークンワード(?)スタイルの男声と普通に歌うヘタウマ女声が陽気に絡むポストパンクパブロックみたいな音楽性が、私のこよなく愛するKING KONGによく似てるので何かにつけ買ってます。デビューから10年経って、プロデューサーがDURAN DURANやマドンナも手掛けたナイル・ロジャースでアレンジも含めて変に(10年前の)ハイファイ・サウンドになっちゃってるし、しかし芯はへろへろなので何だかSUGARCUBESのような有様に。これが意外にもバンドカラーとの違和感はなく、というかマイナーチェンジにめげず生来の変態性は据え置きで、一応洗練されたことにはなってるけどやっぱり相当異色だったろうなあと、当時どういう扱いを受けていたのか不思議でなりません。

  3月8日
本日の収穫、バナナ四ツ谷店にてBARTOK「PIANO MUSIC, VOLUME 1」(NAXOS!)、BARCLAY JAMES HARVEST「EVERYONE IS EVERYBODY ELSE」。カフンはしんどいけど全力でクシャミをしまくるのはちょっと気持ちいいなーと思ってブハンブハン連発してましたら、腰が痛くなりました…御注意。

【只今のBGM:BARCLAY JAMES HARVEST「EVERYONE IS EVERYBODY ELSE」】


74年5th。MOODY BLUESやPROCOL HARUMあたりと同様、今やプログレと呼んでいいのか判らないブリティッシュロック叙情アート派の一員です。結構リリース枚数は多く、初期は生オーケストラを導入していただの、80年代に近付くにつれアメリカナイズされていっただのという流れがあった模様。このアルバムはHARVESTからPOLYDORへの移籍作で、ブルーズ〜フォーク由来の上品な泣きがPINK FLOYD的時間感覚(曲自体は長くない)にのせられたようなことをやっています。いかにも英国といった雰囲気のジェントルな声質のヴォーカルだからいいですね、これでヘタウマソウルフルなオヤジ声だと嫌な感じですけども。アートロックの空気を存分に吸えるのが良いのは勿論、DAKOTA SUITEみたいな英国スローコアにうっすら繋がるものがある気がして購入に至ったのであります。これ、80年代に入ってポップ化した頃の作品を聴いたらまた、その時期のCAMELみたいな絶妙な塩梅になってて良さそうですね。

  3月7日
▼市内に何店舗もある中古CD屋はそれぞれ、数週間のインターバルを空けて訪れるわけですが、何故かいつもしばらく行ってない気がしてしまう(別に行きたさが募るわけではない)ナンバーワンが今池P-CAN FUDGE。本日の収穫LINDA RONSTADT「HEART LIKE A WHEEL」(74年)、CHARLIE HADEN / JAN GARBAREK / EGBERTO GISMONTI「MAGICO」(80年ECM)。

【只今のBGM:LINDA RONSTADT「HEART LIKE A WHEEL」】


ウエストコーストのカントリー/フォークロックシンガーの74年5th。80年代以降ニューウェイブとかラテンとかに手を出して結局AOR化していくそうですが、これは全然初心でやってた時代の作品です。とはいっても1曲目が若干ブリティッシュ(FREEっぽい?)な雰囲気だったり、カントリー風のアレンジでやってる曲も一定以上の泥臭さを上手い具合に排除していたりと、メインストリーム対応型の素質をもっていたようにも思えます。いや、全曲他人の曲だし(全キャリア通じて自作はしてない模様)彼女を取り囲んでいた人々が知能犯だったのか?肝心の声の方については、パーソナルな翳りをあまり見せない上手な歌唄いという印象ですね。ブチブチにくぐもったAMラジオの向こうからもしたたかに響いてきそうな。聴いてて不安になったり居たたまれなくなったりはしないのが良いのか悪いのか、最近のSSWの潮流ってこうじゃない気もしますが、当時の世相を窺い知る楽しみも半分ということで。一級仕事人達によるスティールギターのスライドとかタマランですよ。

  3月6日
本日の収穫、バナナ大須店にてBRAINIAC「ELECTRO-SHOCK FOR PRESIDENT」(現ENONのジョン在籍)。マスタリング特訓中。宅録エンジニアはいい道楽です。

【只今のBGM:BRAINIAC「ELECTRO-SHOCK FOR PRESIDENT」】


早くからニューウェイブ〜ガレージパンク再生に取り組んでいたバンドの97年ラスト作。6曲入りのEPです。ちょっとハッタリっぽいところもある派手な音楽性なわけですが、ex.THE LAPSEのトーコさん率いるENONのメンバーが在籍していたのと、ヴォーカルがジョー・エリオット(DEF LEPPARD)激似なので買ってしまいます。傑作3rd「HISSING PRIGS IN STATIC COUTURE」の次ということで期待しつつ、ジム・オルークプロデュースって何?という不安もあり、聴いたら後者の勝ち。尻軽でハイテンションなバンドサウンドが良かったのに何勝手にエレクトロ・ノイズでプチプチいわせてシリアスにしちゃってんのよと、バンドが望んだ方向だったかも知れないとはいえ元々の面白さがオミットされてしまったような仕上がりに。リミックス音源を聴いてるような感じ。キャリア的にはオマケとみていいでしょう。この次のアルバムを制作中にヴォーカル/キーボードのティム・テイラー氏が事故死してバンドは終わってしまうわけですが、どんな内容になる予定だったんでしょうか。このポテンシャルで色々違うことを試していれば何か新しい流れに行き着いていたかも知れないことを思うと非常に残念。

  3月5日
▼さて行って参りました白鳥センチュリーホール、スピッツジャンボリーツアー「あまったれ2005」!ツアータイトルのついてるライヴなんて、センチュリーホールなんて、入り口付近にダフ屋がいるなんて…と全て不慣れづくし。女性客ばっかりってのは覚悟してたけど、3〜4割くらいが推定30代以上なんて!!何だこれは、明らかに娘に連れられてきたお母さんじゃない。デビュー以来のオールドファンにしちゃオールド過ぎるし、これがオリコントップ10バンドのコンサートか…といきなりカルチャーショックですわ。開場待ちの列で既に今池トクゾーを数回満杯にするほどの行列ができ、物販は並ぶ列を係員が誘導する混雑。開演前の女性トイレにはこれまた昼の学食の如き列。1階26列目は、遠い!ドラムセットはドラマーの姿が見えるようにギアン1個分くらいの高さの台の上に組まれ、ギアン・ベーアン類は各人4〜5個ずつ、キーボードの要塞の奥には木製の生レスリースピーカが今回るか今回るかと待機し、モニターはステージ前方端にボン、ボンじゃなくてそれぞれのマイクスタンドのわきに2個ずつ。開場から何分経っても後方の入り口から場内に流れ込む人間は止まらない。場内暗転前には「撮影・録音などの行為を発見した場合には、フィルムは没収!データは消去!機材は一時お預かりさせていただきます。以上のことが守られなかった場合、公演を中止することがございますので」という恐ろしいアナウンスが。カメラくらいイイじゃん馬鹿。

 セッティングの人々が捌けてステージ上も暗くなると、ほどなく脇からメンバー4人(+サポート1人)がゾロゾロ登場。フロント3人がドラムセットに寄り集まってしばらく集中する時間をとって、カウントとともに始まったのは新作冒頭と同じ"春の歌"。音源が眼前に再生されている、ヤバイ。日本全国数十万人を煽動する楽曲が人間4名から演奏される現場がこれかと。確実な景気の良さで客は大ノリ、フロアを埋め尽くす客全員が頭上で洗濯バサミみたいに手を叩くという光景ですよ。正宗は人の良さそうな白シャツ、三輪氏ははっぴ+ジーンズ、崎山氏はよく見えなかったけど多分ごく普通の服装で、田村がイカれていた。袖なしのダウンジャケットからナマ腕、下は季節感に背くハーフパンツ。動きも変。目立ちたそうな三輪氏が意外と直立で手元見っぱなしでソロまで音源どおりの演奏を披露するのに対し、ヘッドバンギングやら開脚飛びやらをしまくる田村氏はプレイ的にも非常にニュアンスがあってスポンテニアスでした。多分ギター持たせても三輪氏より上手いはず。崎山氏はとにかくコントロールが利いていて、ちゃんとナマモノっぽく叩くんだけど常に余裕がある感じで完璧な仕事人です。


 ステージ後方にはスクリーンと電光ディスプレイが半分ずつ合体したタンザク状のうねうねしたものが6本垂れてまして、ナルホドこれなら全面に映像を映せるし搬入搬出もしやすいわと納得。もっと驚いたハイテクが、遠隔操作なのか後ろに人間がいるのか、ドラムコーラスのパートがやってくると、崎山氏の背後に控えていたJの字を伏せたようなマイクスタンドがにょーっと回転してきて、マイクの先がちょうど顔の正面にやってくるというもの。終わるとまたスッとよけるという。カルチャーショーック!!曲の方は新作からロッキンめな"ワタリ""甘ったれクリーチャー"を続けてヒートアップが図られるも、客層がアダルトなせいかリアクションは全然パワー不足。曲が終わった後キラキラした嬌声がなくて拍手だけってのはやる方もテンション下がるでしょう。訥々とした調子のMCではギリギリのボケも寛大過ぎる笑いで迎えられ、アンタらそこはクスッと笑えば良かったんだよ…などと釈然としなさに苛まれつつ再開。"さわって・変わって""ありふれた人生"に続けられたのはなんと「空の飛び方」から"ベビーフェイス"!意外だったが客はさほど大沸きにもならず。アレンジも多少変わって、何より声が良くなってるので、ライヴで最近の曲と並べて聴いても特に違和感はありません。更に新作から"ナンプラー日和""恋のはじまり"、「ハチミツ」から"愛のことば"、新作に戻って"ほのほ"、大ヒットが記憶に新しい"スターゲイザー"ときて、「ここでちょっと古い曲を、アパートって曲やります」と言って本当に「惑星のかけら」収録のひょろくて甘い隠れ名曲"アパート"出ました。再録セレクト盤作らんかなと思うような良い出来で、しかも続いたのが同じく3rdから"シュラフ"。フルートはバッサリ切られてグランジリフなヘヴィチューンに仕立て直されてまして、これが思いのほかなかなか良い。

 恒例のアコースティックタイムでは新作の"会いに行くよ"1曲だけが披露され、まんま静かなリアクションに「まったりした空気流れてますが(といって宙を振り払う仕草)、ここから盛りあがっていきましょう」みたいな喋りとともに"渚"で早々とテンション回復。タム乱打の合間に2・4拍目で鋭くスネアを打ち込むパターンを延々繰り返す崎山氏上手過ぎ。しかしこれはほんの布石で、"夢追い虫"を挟んで"8823""今"と「ハヤブサ」期レパートリーの畳み掛け。スチュアート・コープランドばりの奮闘が見もののヴァースからスパーンと跳ね上がるサビの"8823"が個人的にはこの日一番のハイライトでありました。セットも終盤にさしかかってきたところでちょっとしたドラムソロタイムがあり、そこから約束の如く正宗がギターをタンバリンに持ち替えて田村大暴れの"俺のすべて"へ。田村氏は本当に売れ線ポップバンドにいていいのかというほど野心的なプレイヤーで、安心の楽曲をバックにベーシスト冥利で好き勝手やりまくってちゃんとファンから人気を博すという何ともお得な人生だなあと羨ましいことしきり。また1曲目から全然使われることのなかった崎山氏のツーバスはここでやっと活躍。たったトータル数十秒のためだけにバカでかいバスドラを1個余分に全国持ち歩くんだね〜と、何かにつけ貧乏くさい感慨が。そして新作の先行カットだった"正夢"につなげて本編終了。この時点で「三日月ロック」からは1曲だけとあって俄然腹が満たない私は相当デカくアンコールの手拍子をブッ叩きました。痛かった…疲れた…

 無事メンバー一同は呼び戻され、演奏前にまずは一言喋りを兼ねたメンバー紹介へ。前の日が実は名古屋のオフでナゴヤドームの中日×楽天のオープン戦を見に行ってファウルボールを争奪した話などをひとしきり。一周して最後に正宗が「長いことバンドやってて、これでいいのかと思いながらずっとやってますけど、これでいいのだと言い聞かせて、頑張ります」みたいな内容の実に頼もしい万年実直文系青年宣言を残し、新作のアップテンポなモッズ風"テイタム・オニール"、今や国民的スタンダード"チェリー"の2曲でアンコール終了。アンコールラストが"チェリー"かぁ〜と若干拍子抜けしてると、客電がつく代わりにさまぁ〜ず三村似のスタッフがマイクを持って現れ、これから"春の歌"PVのビデオシューティングをやりますと唐突に告げ、ここでやっと今日一番の歓声が。そのデカイ声曲が終わった瞬間に出したらどうなのと思いつつ2度目の"春の歌"にちょっとだけノリノリな男性客として応戦。ついでにもう1曲くらいなどと甘い期待を抱いたものの無慈悲な客電にあえなく明順応を強いられ、メンバーが投げるピックやスティックはことごとく見当違いの方向で、本日完全終了。"夜を駆ける"に"ミカンズのテーマ"は、"魚"も"スカーレット"もどこいった〜?と全然腹6分目。やっぱり新作の曲にはあまり燃えられんかったようです。まあしかしやる方はトータル22曲も、殆どロクに休まず演奏し続けて、それで誰も息上がったりしないのは凄いなと勝手に苦労を察しつつ、さっさと会場を後にしたのでした。

 曲目はホントに上で書いたものが順番どおりそのままです。それだけ全部覚えとったのかというとさにあらず、終演後ロビーに出てみるとこのようなセットリストがご丁寧に掲示されておったのであります。

 ちなみにステージ上も写真に収めようと頑張ってみたんですが、女性ばかりの客席に頭ひとつ抜ける大男だしカメラの液晶ディスプレイ切る操作がわかんないしで不可能でございました。この日記のためにも何としても撮りたかったんですがね〜、申し訳ありません。

 視覚と音に時差が出てしまうような席で当惑したものの、予想以上にちゃんと楽しめるライヴした。生演奏でもCD同様、言葉が脳に直通してくる感じは変わらず、半ば学問として音楽に接したりはしない普通の人(の中の女性)の日々の生活に滑り込んで寄り添うような音楽なのだなと、体力の消耗を伴う代わりに感性をエキサイトさせる類のものとはレベルや地位じゃなくて性質そのものが違うことが、この日のライヴおよび数日に渡る予習キャンペーンを通じて実感された次第です。なのでどこまで行っても真っ直ぐなハイウェイしかないような国の市民の心に寄り添うような音楽に憧れてそれを日本で演奏したとして、音楽を聴くために自力で腰を上げてる人にしか届きにくくなってしまうのは仕方がないし、(学問的見地において)密度の濃い高潔なる創作が必ずしも大多数の欲しがるものというわけではないと。音楽のポピュラリティなるものの正体が垣間見られたという点でも意義深い観戦になりました。また古い曲と最近の曲で正宗のやってることが基本的にほとんど変わってないことを確認できたのもひとつ。高低差の効果的なコントロール、同じ山型の平行移動とそのナチュラルな変形、来たるコード展開を予測させて触れ幅を倍増するような経過音の押さえ方と、歌メロに関して踏まえているポイントは昔から一緒で、それが安定して美味い鶏肉を噛み締めるような快感を供給し続けてるんですな。この男のメロディメイキングを徹底研究したら多分味の素みたいなセオリーが抽出できると思います。スピッツの全CDだけ渡されて物凄い辺境に数年間幽閉されたとしても何とかなる気が今はしてます。

 さて次の予定はRED KRAYOLA。物販ではTシャツのみ購入でCD屋へはどこにも立ち寄らず収穫なし

【只今のBGM:THE RED KRAYOLA「FINGERPAINTING」】


余韻消化は帰り道にCDウォークマンで済ませてきたので次の予習ということで。40年とかキャリアのあるすげー爺さんメイヨ・トンプソン率いるTHE RED KRAYOLAのこれは99年作。大昔の作風は知りませんがDRAG CITYおよびシカゴ人脈と絡むようになってからはこういう、ヘロヘロ極まりない60'sサイケフォーク弾き語りをファニーなポストジャーマンロック音響細工で更にグダグダ・トリッピンにしてもらったようなことをやり続けてます。ただのアヴァン工作ミュージックにするんじゃなくて、穏やかな歌声と重心の低い歌心がのっしり全体をシメてるので、耳当たりはしこたま優しい。変態奇天烈なのにツルンと丸い感触で和み版ビーフハート、あるいはJOAN OF ARCの最新作みたいなまとまり方です。というかティム・キンセラは確実に(間接的だとしても)この人の影響下ですね。これを生で見た日にゃ並々ならぬ空気を吸わされることでしょう。どうせ独善的なポスト・ロック・なんでしょ?と敬遠したらきっと損すよ。

  3月4日
収穫はなし。恰好のネタなのにこの日記で宣言してませんでしたが、今週日曜あたりからCDウォークマンを導入してまして、毎日自転車で往復1時間くらい移動する身には実にいいです。iPodとかじゃなくて今更CDウォークマンかよと、それは旦那、不粋なツッコミですよ。日々購入するCDの量を思えばmp3化する手間の方が本体のデカさに勝るというのが一点、そして何より、ワタクシ未だにWindows98ユーザなので!もはや新種ウイルスからも見放される98、今こそ皆様も。

【只今のBGM:ART ENSEMBLE OF CHICAGO「THE MEETING」】


2003年作!まだ現役なんかい、しかもオシャレなジャケじゃん、ということで試聴ののち購入。かつての反骨っぷりはもう鳴りをひそめ、黒人による全世界のためのポスト・フリージャズという線でどんどん聴きやすくなってます。ツカミのいいヴォーカル入りの曲でスタートして、珍奇な民族楽器をいっぱい使ったノイズセッションも手慣れたもの。HENRY COWとMONEY MARKの間をいくこのクールさ、とってつけたようなニッチ狙いではない余裕の貫禄、素晴らしいじゃないですか。メンバーの何人かが亡くなってるそうで(ジャケの4人も相当なじいさんです…)現在活動してるのかどうか判りませんが、最後まで身売りしないままこうしてカドがとれてマイペースで円熟を極めていったなんて泣ける話です。信念をライフスタイルに昇華していった年寄りってカッコイイ。

  3月3日
▼HM/HR専門誌BURRN!にその昔「READY 4 ACTION!」という、読者からの長文投稿を4本掲載する論壇的コーナーがございました(ちなみに初期は半分で「READY 2 STRIKE!」だった)。今、土曜に控えるライヴに向けてスピッツを1stから順に聴いているワタクシは、スピッツに関してウンチク垂れたくて仕方ないんですね。なので垂れさせて下さい、それっぽい口調で。暇な方、ライターとして雇ってくれる気のある方は読んで下さい。内定も下さい。

 世間で言われている大まかなスピッツ史はだいたい、「1stはまだ未完成過ぎ、2ndで基本が固まりかつバンドとして一番好きなようにやってるから本物のファンにとって真の名盤、EPはまあ良しとして3rd・4thでいびつに商業化してやや陰鬱、売れた5th・6th(『空の飛び方』及び『ハチミツ』)で自身のストライクゾーンを掴んで、その後はバンドサウンド志向を増す。9th『ハヤブサ』だけ何か若作り」ってなもんらしい。大まかどころか粗雑極まりない。もっと正確に把握するには演奏者/創作者的実情を了解した補正が加えられるべきだろう。初っ端から話が逸れるが、バンドという主体に私的妄想を載せていいように走らせた記録がまっとうな音楽評論としてまかり通ってライターに飯を食わせるなど甚だ馬鹿らしい話だと思う。それでも国内の現状ではそれでいいことになっているようだし、それを真似しようとする素人レビュワーも今やネット上で端から腐るほど大量に見つけることができる。歴史考証的意味付け・位置付けと音楽および音響の詳細な実況、このシンプルな2本柱があれば読者は買いたいCDを選ぶことが出来るのだから、レビュワーを装ったエッセイストは害にすらなろう。あくまで堅実に、音楽的に、本稿でも論を進めていきたい。

 さてまず疑ってかかりたいのは「本当に『名前をつけてやる』は最高傑作なのか」ということ。1st・2ndはいずれも、バンドが曲を作って演奏するという喜びに満ちた作品だと思う。活き活きした様子は音にも現れていて、ヘタでもヘンでもとにかく迷いがない。ただ創作の背骨に洋楽が大きくあったとはいえ吸っていたのは当時のバンドブームの空気ということで、ライヴハウス経由で伝播してきたと思しきそういう要素が随所に見られ、それが今省みると「雑然として垢抜けない蛇足なバンド感」として耳に届く。1stが未完成と言われる所以はそこだろう。正宗のやっていることは実はさほど変わらないにも関わらず、後々のイメージと比べて「スピッツらしくない」ことになる。2ndではそれが幾分か落ち着いて、次作から続く低迷および商業的成功以降の小慣れっぷりとの落差で体臭度が突出する格好になるから、ファンにとっては唯一ピュアな頂点作なのだろう。実際楽曲も冴えているし、何より初期に顕著な歌詞の妄想性もここで満面開花している。それでも依然ヴォーカルはコントロールしきらない感じだし釈然としないアレンジは多いし、売れる前の作品を推すことでファンの証しにしたいという心理が全く働いていないことはないと思うのだがどうか。

 そして「3・4枚目はやらされ感があってパッとしなくて、ブレイクした5th『空の飛び方』から個性が確立された」というもの。これもやや安直なものだ。先に言うと「空の飛び方」こそ最も「やらされた」アルバムであり、らしい佳曲の多さだけでダメサイドとOKサイドの線が引かれてしまったように思えてならない。そして3・4枚目の低迷を語るときに見落とすことが許されないのは5曲収録のミニアルバム「オーロラになれなかった人のために」である。デビュー以来感じられたロックバンドでいようという大前提的意気込みはここで突然破棄されて、これまで以上の比重で前面に出た正宗のヴォーカルは聞いたことのない深みを見せた。ここで本人は、自分の声に対して初めてちゃんと自覚的になったというような発言をしているという。その勢いで次のアルバムにも取り掛かるのだが、正宗が自覚した自分の好きな声はまだ、落ち着いた曲調が大半を占めた「オーロラ〜」において実践した深く柔らかいトーン1種類だけだったのではないか。そのノリで快活ポップな曲もシューゲイザーまがいのオルタナタッチの曲も歌ってしまったため、全体の色合いは薄暗く、時に曲や歌詞と声が剥離しているようにも聞こえるのだと。また「惑星のかけら」リリースは92年、正にPEARL JAMやNIRVANAがバカ売れして、ゴージャスの対極にあって少し沈み気味くらいに現実的なのこそ地に足ついたロックのやり方だと誰もが信じた時代。「惑星のかけら」は創作の起点から暗さがあった訳ではなく、オルタナ礼賛ムードに自然にあやかったために暗さが出たと考える。打って変わって過剰なまでにポップに仕立てた「CRISPY!」はとにかく後味が悪い。とにかくダウナーな"多摩川"に続き、良心を捨てて商業化の闇へ飲まれる覚悟を歌ったような"黒い翼"でシメるというのは確信犯的極悪だろう。作詞面において、かわいい表現のすぐ隣りにゾッとする単語を置いて一気に不安に陥れるクセが顕著なのもこの頃の特徴だ。一方でやらされたかのように言われる明るさは実は商業的成功のためにバンド自ら望んだものだし、BUZZCOCKSなんかも好きだというポップパンク趣味と割とスンナリ結びついてすらいる。やらんとすることと知っているやり方が食い違ったためにいびつさが出ていたのがこの時期だと考えたい。

 "空も飛べるはず"を収録した「空の飛び方」は、バンドとしては完全に死なされているアルバムだろう。1枚を通しての起伏づけにしたかったのか、アコギでストロークするギターポップっぽい曲はほぼ現在の姿と変わらないものになっているのに、ハツラツめの曲はまるでZARDのようにされてしまっている。バンドを脱退したシンガーが外部プロデューサにお任せで作り上げた散漫なソロアルバムのようではないか。名曲になり得た"恋は夕暮れ"の場違いなホーンアレンジなどは最悪としか言いようがない。成功したから肯定されるのだろうが、「CRISPY!」よりも各段にイライラさせられる場面は多い。意義があったとすれば、ここまででひとしきりの試行錯誤は済ませたということだ。次作「ハチミツ」はいよいよ成熟して賢くもなったバンドの焦点が定まった大名盤となった。鬱陶しいストリングスやホーンはパッタリ退けられ、かわいいめのギターポップという方向で全体が統一されている。時期的にも80年代バブリズムの呪縛から完全に開放されて30年前の音楽をみんな上手く対象化するようになった95年である。シンプルなフォークロックに根差したギターポップスタイルが正宗の歌心ともともと高い親和性をもっていて、長い時間を費やしてやっとマッチした結果それが一番スピッツらしいということに本人も周りも気付いたがゆえの成功作であろう。ヴォーカルも随分頼りになるようになった。未だにスピッツのパブリックイメージはこのアルバムの雰囲気をさすというくらい、全てがしっくりいったアルバムである。

 これ以降は割愛してもいいのだが「三日月ロック」が最高傑作だと言い張りたいがためだけに続ける。大成功後のフォローアップ作となった「インディゴ地平線」は、作風自体に変化はないものの、しばらく消えていたロックバンド感が帰ってきたという点で小さなターニングポイントといえる。プロデューサーの技を散々学んで、個性と上手く結びつくように自律的にロックできるようになったバンドの底上げされたパワーを感じる。必要充分な荒削りという匙加減を体得したのだろう。インディロックぽくなったという意味でも、コマーシャリズムによる翻弄からの脱却という意味でも、「インディ・ゴ地平線」であったのだ。このアルバムで解せないのはただ一つ、何故こうも高域が抜けないミックスになったのか。ツピツピした人工的高音を排除してリアリズムを追究しだしたアメリカンインディーの潮流にあやかりたかったのかも知れないが、完全に失敗している。続く「フェイクファー」は、ロック感に裏づけられる柔らかさの表現にも挑んでまんまと成功、"冷たい頬""楓"などの名曲も送り出して「売れそうなのに嫌味はなくてバンドらしいバンド」なる難易度の高いポジションを上手く掴み取った。と同時にかつてない余裕が滲み出るようになり、上り調子だったところからの加速度の下げ止まりも若干窺わせた。誰にも文句を言われないところまで大成してしまったその後の足取りをどう踏み出すか、その注目をはぐらかすかのようにシングルB面集+αの「花鳥風月」、3曲だけ収録の「99EP」のリリースが続く。「99EP」ではポップ性とロックバンドとしての肉体がよりしたたかにリンクするようになり、若々しき円熟という新たな境地の片鱗を見せた。「ハヤブサ」に続く。

 「ハヤブサ」はある意味「惑星のかけら」の真逆ともいえる。最もアグレッシヴであるように作られたアルバムだろう。尻切れ気味のエンディングで畳み掛けるように続く冒頭3曲で意思表明は充分だ。単に若返っただけでなく、今時の若者の佇まいで若いのがこのアルバムのポイントである。かわいい優しいスピッツを一旦リセットして、ロック野郎の集まりとしての体力を今一度試し自らにテコ入れを図る、イマドキ・ロッキンの習作になった。だから「インパクトは強いがあまり繰り返し聴かない」という感想も妥当といえる。これもスピッツ、というアルバムであって、これこそスピッツ、というわけではないのだ。そしてここでの公開実験の成果と、"ホタル"などに見られたシリアスな産業HR的泣きをちょっとした新機軸としてズバーンと過去現在のバンドの姿を総括したワイドレンジな力作「三日月ロック」は、冒頭曲"夜を駆ける"の有無を言わせぬ滑走離陸に導かれて始まる、ことさら特別なマジックのはたらいた稀なアルバムに仕上がった。今更まだ初めて聴くような新しさもある一方、演奏面を含む徹底的な円熟は快適感以上の感嘆を誘う完全スピッツ印のアミューズメントとして作用する。発声の逞しさと表現力の強化にも目を見張るところ。自己没入し過ぎない程度に示唆的で意外と腹に残る歌詞も冴えている。長年培った底力と正宗の枯れない天才性が見事に合致して内容的成功につながった、ある意味第二の「ハチミツ」的作品ともいえよう。圧倒的にモニュメンタルなのだ。

 「色色衣」に収録された"スターゲイザー"が泣き産業HR路線を踏襲していたのは個人的にとても好ましかったので、この調子でどうやってくれるのかと「スーベニア」には期待した。「三日月ロック」パート2でもよかった。しかし内容は、極めてストレートな各曲のそのストレートさがそれぞれ違う方向を向いた、散漫な割に冒険のないものになった。確かにスピッツしかやる人のいないようなアルバムだし、名曲と呼べるものもいくつか収められている。だが全体の通りが心なしか悪い上に若干のあざとささえ感じる。枯れない天才が成功のあと時間の流れとどう付き合っていくかはいつも難しい命題だろう。桑田佳祐は現役として上手くいっているといえるのか、何ともいえない。次の一発で本当に「熟年期スピッツ」の方向性は固まるだろう。METALLICAが「MASTER OF PUPPETS」「...AND JUSTICE FOR ALL」からブラックアルバムへの間でなし遂げたような大転回をスピッツもかますのだろうか。思うに彼らは出来のいい金づるだからレコード会社がそうはさせない気がする。「スーベニア」の奮わなさにもそういうフシを感じるのは深読みか?ともあれまだ動向は見守るつもりでいる。

▼…長かった、お疲れ様でした。本日の収穫NEW AGE STEPPERS「NEW AGE STEPPERS」「ACTION BATTLEFIELD」。

【只今のBGM:スピッツ「99EP」】


たった3曲だけの見落とされがちな一枚ですが、実は人知れず飄々とひと皮むけていたという点でちょっとした目印的な作品だったと思います。1曲目"ハイファイ・ローファイ"はさりげないながらも中村一義など若い世代がつり上げた和製ロックのニュースタンダードにかなったような出来だし、"青春生き残りゲーム"ではハードロックリフ+いつもどおりのサビという既に実践済みの手法をもっとナチュラルにやり直して、総じて「ハヤブサ」での現役ロックバンド・スピッツ宣言の布石となっているようです。一方完全に昔ながらのスタイルでいった"魚"はその2曲の間に挟まれながら違和感を漂わせない。このキャリアにして未だ拡大(にして変遷に非ず)するフォロー範囲を、そんなそぶりも見せずに軽やかに提示した、そういう盤であったのでは。今やここの収録曲はソックリ「色色衣」に移され、単体ではユニバーサルからの再発はないようですが、「色色衣」とまるカブリでも別個で持っていたい一枚かと思います。

  3月2日
本日の収穫アマゾンから届いたCHEER-ACCIDENT「NOT A FOOD」(96年アルビニrec)、SATIE「PIANO WORKS」("ジムノペディ"他のセレクション)。

【只今のBGM:CHEER-ACCIDENT「NOT A FOOD」】


一度はこんな宣告を受けながらもどういうわけか結局アマゾンで買えた品。96年、SKIN GRAFTではなくPRAVDAというレーベルからのリリース。この欄では過去に二度取り上げてるバンドです。1stのメタリック変拍子路線からはいつ脱却したのか、これは録音自体は94年のようなんですが、MAGMAやKING CRIMSONのダークサイドを抽出してポストコア風に再構築したような不穏系変拍子フレーズの酩酊的シークエンスが表を張る、既に取り上げた2枚のちょうど中間をいく内容。JUNE OF 44とTHE 3RD AND THE MORTALの間をつないで、かつANGLAGARDにも匹敵するようなグレイトな作品になっております。ANEKDOTENはこれを見習えと。コブだらけの低速ジェットコースターに乗るようなトリッキーなリズムをずっしり響かせるアルビニ・プロダクションもひたすら最高。裏・名バンドとしてさえあまり語られないのは、そのユニークさゆえに後続の系譜が存在しない(か目に入らないくらいに細い)せいか。いやいや、語り継いでいきましょうよ。ことごとく廃盤になったりしないうちに入手を。

  3月1日
収穫はなし。ここ数日、今週末のスピッツ名古屋公演に向けて初期作品を借りてきて聴いております。アレンジは80年代あがりのバンドブーム風イディオムにまみれてるけど正宗の歌心変わらんなとか、思うところは色々あるわけですが、BOOWYに憧れる中学生みたいなソロを平気でかます三輪テツヤはあれでいいのかと大いに疑問です。これはコアなファンの間ではどういうことになってるんでしょうか?メンバー内では問題ないみたいだからSUGARCUBESのアイナー的存在として諦め半分に納得するしかないのか。むしろ不満の矛先は布袋に向かいます。酷い見本で世の少年達を誤解させて日本のロックギター水準を下落せしめた凶悪戦犯ですわあの男、全然嫌。不倫するし。

【只今のBGM:スピッツ「オーロラになれなかった人のために」】


ということで2ndと3rdの間に出た5曲入りEP。コーラスがかった中途半端なクリーントーンと妙に快活ロッキンなリズムを当たり前のようにフィーチャーしていたそれまでのスタイルから一変、4人組ロックバンドであることに拘らないアレンジ(ストリングスや管楽器、マリンバ等)を突如大々的に導入して、結果ど真ん中で頑張らざるを得なくなった正宗のヴォーカリゼイションがいきなりグレードアップしたという、脱皮の一部始終を撮影したような非常に興味深いというか貴重に思える内容になっております。5曲中4曲がRED HOUSE PAINTERSかAMERICAN MUSIC CLUBかというノリ。近年作にあるこういうボヤーッとゆるい雰囲気の曲も、別にスローコア的なものが薄まってオーバーグラウンドまで届いてきたのを(デスキャブとか)キャッチしてああいう風になったというわけではなく、全然昔から持ってたイメージなんですな。唯一アップテンポな"海ねこ"だけはフィル・コリンズみたいなハツラツ仕立てになっちゃってますが、整然としない蛇足なバンド感は明らかにオミットされてて、これ以後スッキリ売れるポップスと化していくその片鱗がしっかりと窺われます。進路の転換点に産み落とされた異色の静謐チェンバーアルバムということで佇まい的にはクリムゾンの「ISLANDS」みたいな感じかも。(って言いたいだけかも。)ブレイクに向かって容赦ない洗練(と不本意な脱線)が始まる前夜は斯様にもひっそりしていたようです。

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