これはここ7・8年以内に拡大しても、一番凄い頻度で聴いた盤です。80〜90年代を通してガチガチに育ってしまったHM/HRのコンテクストの横を至近距離で素通りしつつ、ハードロックの基点になった70年代初頭の衝動(≒ツェッペリンのショック)を現代流の骨太サウンドに移植したような、聴き応え100%超えの超濃厚作。しかもそれを変化球だらけで実現してしまったために、どういうことだろうといって何度も何度も聴くしかない。そんな奥ゆかしいことばっかりやってるから遂に今年の9月をもって解散してしまったではないですか。世界が、ロックの歴史が嘆くべきだ。
メタルシーンの外側から来た完璧なカルトメタルアルバム。最初は「冗談半分かも知れない割に凄い」という意識がどこかにありながら聴いてましたが、聴き込むほどに何と必然性のある音なのかと、心底感服してしまっております。極度のダウンチューニングを凡百のデスメタルバンドよりも巧みに使いこなし、NWOBHM的な「生メタル」のテイストをガンガンに振り撒いているあたりから、本気ぶりというか実直さが伺えます。
もはやポストロック、シカゴ音響の範疇で語ろうとすることもナンセンスとなりました。70年代と80年代の瀬戸際の、プログレがニューウェイブの橋を渡ろうとする瞬間のおかしさと大真面目なリリシズムをこんな風にとらえるとは。という大胆すぎる「結果的ポップ・アルバム」です。新作が出たばっかりとのことで、遂にCUNEIFORMデビューしてます。JACKSONのエンドースを受けているデイヴィッド・パホといい、あんたらどこまで行く。
バンド仲間のえこひいきでも何でもなく、前出のRIDDLE OF STEELと並んで2008年期・脳内反芻回数ナンバー1を争った、最高の名曲集です。「学生身分とおさらばしてしばらく経つけど、心にエモさを隠し持つ男達」にはざくざくと刺さる。しかも死ぬほどオリジナルな境地。そこいらの評論家が私情むきだしで好きな盤を褒め称えるときに使うこの表現を捧げましょう、「捨て曲なし」と。
私はやっぱりプログレメタルが好きです、ほんのひと握りだけですがそれらのことはとても。素晴らしいプログレメタルは、屈折性が目的ではなくて、「屈折することも音楽になっている」という感覚。このアルバムはほとんど「ひん曲がったJOURNEY」です(声質的にも)。クサクサ叙情ポストロックが大好きな人達が求める理想像って実はこのへんなのではないかという気がしてなりません。ダサくないから聴いてください。
同傾向でもう1枚。ただストレートで工夫のないものはよほどの愛か巧みさを感じない限り敢えて買おうとは思わない、変化球が行き過ぎたものは往々にして奥深さを忘れがち、特定のマニアを喜ばせるためだけにそんなに記号を先鋭化されてもなあ…と、ジャンルの細分化が進むにつれ「ほどほどに聴き応えのある好バランス作」がどんどん少なくなってきている気がしますが、このバンドはいいとこ突いてますね。素直じゃないところと気持ちいいところをそれぞれ複数パターン持っていて、適切に使い分けてくるという。RUSHの真似事をしてた時代から大好きですが、ここへきて更に逞しく現役ぶりを発揮してくれているとは嬉しい。
いやーこれは超問題作でした、ほとんど困ったちゃんの域。カルトブラックメタルが無垢なジャーマンロックになってしまった奇跡。無垢といっても、そこには黒々とした諧謔なりがあるわけです。それにしてもここまでやるかと…。JAGJAGUWARから出ていても、CRAMPSやReRからでも、SSTでもMOONFOGでもおかしくないメタ変態ロックの頂点的アルバム。
これも実によく効き(そして聴き)ましたですね。アンセムチューン"Skydiving"。この気持ちよさは、青春時代に胸キュン系産業ロックを聴き漁った者にしか分かるまい。JOURNEYの「ESCAPE」「FRONTIERS」という圧倒的なオリジナルが存在する以上、すべての後続はそれを超す興奮をもたらすことはないわけですが、それと照らし合わせてみてもこんなに全てが完璧なんてどういうこと、と脱帽させられる稀有な出来の盤でありました。むしろちょっと濃縮されていて、イヤラシさは上回っていたな。
ヤツらまだまだこんなに本気だったかと戦慄が走った強力盤。明らかにデリック・グリーンになってからの方が逞しさを増しております。そんな基礎代謝の高さっぷりがより顕著に伺えたのは、実はボーナスでカップリング収録されていたカヴァーEPのほうだったのですが。さておき、よくある記号に甘えず、自ら拓いた道にグダグダ留まりもせず、様々なエスニズムを紳士的に飲み込んでいく冒険心は拍手モノ。へヴィミュージックの快感とはこうあるべし。
正統派バンドが「これからはスラッシュメタルなんかも意識していかんとなあ」と軽くダークになってみている感じの塩梅が非常にツボなんですが、このアルバムは「まだあったか!そんな贅沢がっ!!」と気が狂ってしまいそうになるほど、その路線を完璧に形にしている作品です。中学校時代からずっとジャケがかっこいいと思い続けていてようやく中身を聴けた、という感慨も込みで、心に残る非常によい買い物でした。
これもリチャード・シンクレア狂には危険なモルヒネ。こんなに御大のジェントル声とセンスオブユーモアだけを純度100%で味わえるなんて、もう生クリームプールの夢は見ませんごめんなさい、というくらいドップリ溺れられます。普通に紙一重でアノラック同然だったりもして、沢山の人におすすめできます。
そうそうグランジ全盛の空気はこうだった、とリアルに思い出させてくれた1枚。MTVなんてつけようもんなら、朝も昼も夜もR&Bかこれって感じでした。んでほとんどメタルじゃんというへヴィネスがあるあたりも嬉しいポイント。いろんなもので身を固めすぎて自由が利かなくなっていったメタルに代わって、生々しいへヴィネスをドボン、ドボンと聴かせてくれるのが燃える。
本当にきれいなもの対しては、「心洗われる」なんて単純ナイーブな感想ではなく、全てを見透かされて申し訳なくなるようなある種の怖さすら感じるものと思っておりまして、これが正にそれ。時間と資金があればこの人の70年代全作品コンプリートしていつまででも聴きたい、といつでも思ってます。
ディー・スナイダーがこんなにデキる男だったとは…と腰を抜かしたのと、アル・ピトレリは仕事人以上の何かであったりもしたことがあったのねと恐れ入ったのとで、強烈なインパクトがあった盤です。メタルとグランジのジレンマで訳の分からないことになっているこのへんのセールス不振作にこそロックのパワー、へヴィネスといったものの真実が潜んでいることをご存知か!
真面目なハードロックバンドがシンセバリバリの産業ロックにかぶれてしまいかけた最初の時期というのもツボでして、このアルバムはぎりぎりファンからの評価も優れないという、まさに絶好の腐り具合で最高。そしてリック・エメットの良さは全時代とおして不変なのです。
スラッシュメタルとスピードメタルにテクニカル志向のネオクラまで割って入って、超高圧縮・ハイスピード・ハイトーン!!で躁鬱の躁状態の頂点にきていた80年代USメタル、これも畏敬すべき遺産。特にこのアルバムは薫りが強くて最高でした。